資産形成・老後資金 2023.10.13

年金の繰下げ受給とは?増額率の計算方法や損益分岐点となる年齢など解説

日本は世界の諸国と比べても平均寿命が長く、男女ともに80歳を超えています。長い老後生活を前に、老後資金への不安を感じている人も少なくないでしょう。

なかには、将来の年金額を増やすために繰下げ受給を検討している人もいるのではないでしょうか。

本記事では、年金の繰下げ受給に関する基本情報や計算方法を解説します。65歳から受給開始するより年金総額が多くなる損益分岐点も説明するので、参考にしてください。

年金の繰下げ受給の概要

公的年金の受給開始時期を遅らせることを「年金の繰下げ受給」といいます。具体的には、原則65歳から受給する公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)を、66歳以降75歳の間に繰り下げて受給開始できる制度です(※)。

1ヶ月単位で繰り下げでき、繰り下げた期間だけ受け取れる年金額を増やすことができます。増額率は1ヶ月あたり0.7%(最大84%)で、その増額率が一生涯続きます。また、老齢基礎年金と老齢厚生年金は、別々に繰り下げることも可能です。

なお、老齢基礎年金は、国民年金や厚生年金保険などに加入し、保険料納付済期間などが10年以上ある場合に受け取れます。一方、老齢厚生年金は、会社員や公務員などの厚生年金保険に加入していた方が老齢基礎年金に上乗せして受け取れるものです。

(※)1952年4月1日以前生まれの人が繰り下げできるのは70歳までです。

年金は繰上げ受給も希望できる

年金は「繰上げ受給」も選択できます。繰上げ受給とは、受給開始の年齢が原則65歳であるところ、60歳から65歳になるまでの間に繰り上げて受け取れる制度です。

繰上げ受給を選択すると、繰り上げた月数に応じて1ヶ月ごとに0.4%(最大24%)年金額が減額され、その減額された金額が一生涯続きます(※)。

また、原則として老齢基礎年金と老齢厚生年金の一方だけを繰上げ受給することはできません。 

(※)1962年4月1日以前生まれの方の減額率は、0.5%です。

繰下げ受給を希望したときの年金額について

年金の支給開始を遅らせるほどもらえる年金額は増えますが、繰下げ受給した方が得になるかどうかは何歳まで生きるかによって異なります。

ここでは、65歳から年金受給を開始するより総額が多くなる損益分岐点を解説します(2023年3月現在)。

繰下げ受給したときの増額率の計算方法

繰下げ受給を選択すると、受給開始を1ヶ月遅らせるごとに0.7%年金額が増額します。

・増額率=0.7%×65歳に達した月から繰下げ申請した月の前月までの月数

例えば、受給開始を1年・5年・10年繰り下げた場合の増額率は以下のとおりです。

繰下げ期間 受給開始年齢 増額率
1年 66歳0ヶ月 8.4%
5年 70歳0ヶ月 42%
10年 75歳0ヶ月 84%

65歳から受給開始した場合の老齢基礎年金の満額は777,800円(2022年度)であるため、1年繰り下げて66歳から受給すると年金額は約84万円になります。また、75歳まで繰り下げた場合の年金額は、約143万円です。

繰下げ受給したときの損益分岐点

繰下げ受給すれば繰り下げた期間に応じて年金額が増額しますが、受給期間(受給開始から亡くなるまでの期間)によっては、65歳から受け取るよりも受給総額が少なくなる可能性があります。

では、何歳まで生きると65歳から受給開始する場合の総額を上回るのでしょうか。年金の受給開始を5年・10年繰り下げたときの損益分岐点となる年齢は、それぞれ以下のとおりです。

受給開始年齢 65歳から受給開始する場合の総額を上回る年齢
70歳(5年繰り下げ) 81歳
75歳(10年繰り下げ) 86歳

さらに、70歳と75歳、それぞれの年齢から受給開始するケースを比較すると、75歳から受給した場合の総額が上回るのは91歳です。

年金の繰下げ受給は、受給開始を遅らせるほど年金額が増える制度であることは確かです。しかし、実際にどの程度長生きするかはわかりません。

厚生労働省の「令和3年簡易生命表の概況」によると、日本の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳です。

これはあくまで平均ですが、上記の損益分岐点と見比べると必ずしも繰下げ受給した方が得だとはいえません。繰下げ受給を選択するかどうかは、自分の健康状態などを考慮して検討する必要があるでしょう。 

 

年金の繰下げ受給の注意点

年金の繰下げ受給には、いくつか注意点もあります。以下の点も踏まえて、繰下げ受給すべきかどうかを検討しましょう。

・繰り下げている期間中は加給年金・振替加算が受け取れない
・遺族年金・障害年金を受給していると申請できない
・所得に応じて決まる税金の額が増える可能性がある

詳細を以下で解説します。

繰り下げている期間中は加給年金・振替加算が受け取れない

年金には、老齢基礎年金や老齢厚生年金に上乗せされる「加給年金」や「振替加算」があります。

加給年金は、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある方などを対象に、原則65歳到達時点で条件を満たす配偶者・子がいるときに加算される年金です。

また、振替年金とは、妻(夫)が65歳になり夫(妻)の加給年金額が打ち切られたときに適用されるもので、妻(夫)側に加算されます。

しかし、年金の繰下げ受給を選択する場合、繰下げ期間中は加給年金・振替加算が受け取れない点に注意が必要です。加えて、加給年金や振替加算は、増額の対象にはなりません。

ただし、加給年金や振替加算を受け取りながら繰り下げする方法もあります。夫(妻)側は、老齢基礎年金のみを繰り下げれば加給年金額を受給でき、妻(夫)側は、老齢厚生年金のみを繰り下げれば振替加算の受給が可能です。

遺族年金・障害年金を受給していると申請できない

65歳の誕生日の前日から66歳の誕生日の前日までの間に遺族年金や障害年金を受ける権利がある場合、繰下げ受給の申請ができません。

・遺族年金:亡くなった方によって生計を維持されていた遺族が受け取れる年金
・障害年金:病気やけがで生活や仕事に影響を与える場合に受け取れる年金

繰り下げできるのは、遺族年金や障害年金の権利が発生するまでの間です。ただし、障害基礎年金のみ受け取れる場合、老齢厚生年金の繰り下げは可能です。

所得に応じて決まる税金の額が増える可能性がある

繰下げ受給をして年金額が増額すれば、所得が増えることになります。所得税・住民税や国民健康保険料・介護保険料は所得に応じて税額が決まるため、繰下げ受給により納める保険料や税額が増える可能性があります。

実際の手取りは年金の増額率ほど増えない可能性があることを踏まえ、繰下げ受給するかどうかを検討しましょう。

繰下げ待機中にさかのぼって年金を受給することも可能

繰下げ受給を選択した場合、年金を受給開始するまでに病気などで大きなお金が必要になる可能性も考えられます。

繰下げ待機中に受給を開始したくなった場合、65歳からの年金をさかのぼって受給することが可能です。ただし、手続き時点から5年以上前の年金は受給できません。

例えば、繰下げ待機中の方が72歳の時点で過去の年金をさかのぼって受給したくなった場合、67歳から72歳になるまでの5年間の年金を一括で受給できます。このとき、67歳で繰下げ受給の申し出があったとみなされ、増額された年金を受け取れます。

受給を開始したら方針を変更できないため、事前によく検討しましょう。

年金に加えて取り組める老後への対策

厚生労働省の「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2022年度の国民年金の平均年金月額は56,479円、厚生年金の平均年金月額は145,665円でした(※1)。

一方、生命保険文化センターが行った調査をみてみると、夫婦が老後生活を送るうえで最低限必要な生活費は約23.3万円、ゆとりある生活を送るのに必要な生活費は約37.9万円だと考えられています(※2)。

上記は18~79歳を対象とした調査であり必ずしも実態を示しているわけではありませんが、寿命が延び老後生活が長くなることを考えても、早いうちから老後に備えておくことは大切だといえます。

年金の上乗せとして備えられる方法のひとつに、個人型確定拠出根金(iDeCo)があります。iDeCoとは、月々5,000円から掛金を拠出して運用し、原則60歳から拠出した掛金と運用益の合計を受け取れる制度です。

iDeCoには、税制上の優遇が3つ設けられています。

・掛金が「小規模企業共済等掛金控除」の対象となる
・運用で得た利益が全額非課税になる
・受給時に「退職所得控除」または「公的年金等控除」を受けられる

月々の掛金が全額所得控除の対象となるため、所得税・住民税の負担軽減が可能です。また、60歳になるまでに加入期間が10年以上あれば60歳から年金を受け取れるため、公的年金を受け取るまでの期間の費用にも備えられます。

ただし、運用商品によっては年金額が拠出した掛金を下回る可能性があり、60歳まで原則として引き出しできない点を理解しておきましょう。

(※1)出典:厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
(※2)出典:公益財団法人生命保険文化センター「老後の生活費はいくらくらい必要と考える?」

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まとめ

年金の繰下げ受給とは、原則65歳からの受給開始年齢を66歳~75歳に遅らせることです。70歳まで繰り下げた場合、81歳まで生きれば繰下げ受給による恩恵を享受できます。

年金の繰下げ受給には複数の注意点もあるため、正しい情報を理解して繰下げ受給するかどうかを検討しましょう。

また、平均寿命が延びている今、老後のために私的に備えることも大切だといえます。老後への備えをはじめたい方は、auフィナンシャルパートナーへの相談をぜひご検討ください。

執筆者名:
松崎 みづき
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